アンモニアの電解的合成
アンモニアは容易に液化できるため輸送や貯蔵に適し、また火力発電所の燃料や燃料電池の燃料として利用した際にCO2を発生しません。再生可能エネルギーを利用してアンモニアを合成できれば、CO2を発生しないグリーンエネルギー源となります。アンモニアは工業的には高温高圧(500℃、200気圧程度)の連続プロセスで生産されます。変動が大きく間欠的な再生可能エネルギーを利用するには、新しいアンモニア合成プロセスの開発が必要となります。当研究室では、プロトン(H+)が通る材料を用いた電気分解セルを作成し、水と窒素からのアンモニア合成プロセスの開発を行っています。水の電気分解において、水素が発生する電極に窒素を流して、直接プロトンと窒素を反応させることでアンモニアを合成します。これまでに常圧220℃でのアンモニア合成に成功しており、アンモニア合成電極触媒の研究開発を進めることで、高いアンモニア合成効率の達成を目指しています。
関連論文
1) Y. Yuan, N. Fujiwara, S. Tada, R. Kikuchi, RSC Adv. 12 (2022) 8474-8476.
2) Y. Yuan, S. Tada, R. Kikuchi, Sustain. Energy Fuels 6 (2022) 458-465.
3) S. Kishira, G. Qing, S. Suzu, R. Kikuchi, A. Takagaki, S.T. Oyama, Int. J. Hydrogen Energy 42 (2017) 26843-26854.
CO2電解還元による有用物質合成
固体リン酸塩を電解質とする電解セルを用いてCO2を電気分解することにより、メタノールやエタノールを直接合成することに成功しました。常圧220℃という温和な反応条件において、CO2を電極触媒上でメタノールやエタノールに直接変換することに成功したのは世界で初めてです。これらのアルコールに加えて、液体燃料や石油化学製品の原料となるエチレンやプロピレンをCO2から直接合成することにも成功しています。
これまでにも作動温度が100℃未満の固体高分子電解質や液体電解質、作動温度が500℃以上の固体酸化物電解質を用いたCO2の電気化学還元は多数報告されていますが、前者は反応速度が小さい、後者は生成物がCOやCH4に限られるという課題を抱えており、より炭素数の多い炭化水素やアルコール類の高速な直接合成が望まれていました。
現在は、電極触媒の最適化や電解反応条件の検討により、CO2転化率と生成物の選択性を向上させ、CO2を効率よく高速で有用な化学物質に変換する装置開発を行っています。
関連論文
1) N. Fujiwara, S. Tada, R. Kikuchi, iScience 25 (2022) 105381.
2) N. Fujiwara, H. Nagase, S. Tada, R. Kikuchi, ChemSusChem 14 (2021) 417-427.
3) 日本経済新聞(Web版2022/11/10)
CO2水素化による有用化学物質合成の研究
持続可能性の高い社会システムを構築するためには、限りある化石資源を有効に利用すること、また化石資源に頼らない原料やエネルギー源から化石資源代替物を製造することが課題です。政府は2020年10月に、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるゼロ・エミッションを2050年までに目指すことを宣言しました。2021年末に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会合(COP26)においても議論に上がったように、ゼロ・エミッション社会の実現に向けた世界的な潮流があります。その中で、燃焼排ガスなどから回収したCO2を原料として燃料や化学品などを製造し、有効に利用する技術、すなわちCarbon dioxide Capture and Utilization(CCU:CO2回収・利用)に注目が集まっています。上に再生可能エネルギーを活用したCO2有用物質変換プロセスの概略図を示しています。まず、再生可能エネルギーを活用した水電解により水素を製造します。次に、CO2を燃焼排ガスなどから分離・回収します。そして、水素とCO2を触媒反応器内で反応させ、有用物質を製造します。当研究室ではこれまで、メタン、メタノール、ジメチルエーテル、オレフィンなどを選択的に製造するCO2水素化触媒の開発研究を進めてきました。
関連論文
1) S. Tada, T. Jinushizono, K. Ishikawa, S. Miyazaki, T. Toyao, K.-i. Shimizu, M. Nishijima, N. Yamauchi, Y. Kobayashi, R. Kikuchi, Energy Fuels 38 (2024) 2296-2304.
2) S. Tada, H. Kinoshita, D. Li, M. Nishijima, H. Yamaguchi, R. Kikcuhi, N. Yamauchi, Y. Kobayashi, K. Iyoki, Adv. Powder Technol. 34 (2023) 104174.
3) S. Tada, D. Li, M. Okazaki, H. Kinoshita, M. Nishijima, N. Yamauchi, Y. Kobayashi, K. Iyoki, Catal. Today 411 (2023) 113828.
4) S. Tada, H. Nagase, N. Fujiwara, R. Kikuchi, Energy Fuels 35 (2021) 5241-5251.
5) S. Tada, K. Fujiwara, T. Yamamura, M. Nishijima, S. Uchida, R. Kikuchi, Chem. Eng. J. 381 (2020) 122750.
6) S. Tada, S. Kayamori, T. Honma, H. Kamei, A. Nariyuki, K. Kon, T. Toyao, K.-i. Shimizu, S. Satokawa, ACS Catal. 8 (2018) 7809-7819.
金属酸化物固溶体の理解と触媒応用
一般的な金属酸化物(Al2O3やZrO2)に異種元素を少量固溶させることで、金属酸化物固溶体を作ることができます。結晶場の影響によって、この固溶元素種は特異な微細構造を有しています。このため、固溶元素種を反応の起点とする触媒設計が可能となります。現在私たちは、固溶現象の理解を通して、金属酸化物固溶体が活躍できる新たな反応を開拓しています。
関連研究
1) S. Tada, M. Kondo, T. Joutsuka, ChemCatChem, in press. (Invited review paper)
2) S. Tada, Y. Ogura, M. Sato, A. Yoshida, T. Honma, M. Nishijima, T. Joutsuka, R. Kikuchi, Phys. Chem. Chem. Phys. 26 (2024) 14037-14045.
3) M. Kondo, T. Joutsuka, K. Fujiwara, T. Honma, M. Nishijima, S. Tada, Catal. Sci. Technol. 13 (2023) 2247-2254.
4) S. Tada, N. Ochiai, H. Kinoshita, M. Yoshida, N. Shimada, T. Joutsuka, M. Nishijima, T. Honma, N. Yamauchi, Y. Kobayashi, K. Iyoki, ACS Catal. 12 (2022) 7748-7759.
5) S. Tada, F. Otsuka, K. Fujiwara, C. Moularas, Y. Deligiannakis, Y. Kinoshita, S. Uchida, T. Honma, M. Nishijima, R. Kikuchi, ACS Catal. 10 (2020) 15186-15194.